013 元アイドルの女03

「いま、彼女のこれからの展開について考えてたところなんだわ。このまま続けていっても、たいして数字が伸びることもないだろうし、突き抜けるきっかけなんてないんじゃないか、ってな」

キバさんは相変わらず遠慮がない。音楽ディレクターの立場では、明らかに越権行為。そんなことを言える立場ではない。けれど、シバノ社長はそれをとがめることはしなかった。

宮中しほりが震える声で反論する。

「この先、大きいタイアップとか、ヒットメーカーのプロデューサーとかに恵まれれば、もういっぺんジャンプアップできるかも知れないじゃないですか」

「いや、無理無理。おたくの事務所、大御所も、実績じゅうぶんの中堅も、伸びざかりの若手も、山ほどいるんだぜ。タイアップやら何やらは、そっちがみんな持っていっちゃうよ。これまでの作品で結果を残せなかったのに、こんな大きい会社で、もうチャンスなんて回ってこない」

まったくもって正論。マキシシングル3枚、フルアルバム1枚。配信ではなく盤でのリリース。むしろ、チャンスはそれなりに与えられたというべきだ。シバノ社長は、沈黙で肯定をあらわしている。

「あたし、事務所をクビになるってことですか…」

「いや、ちょっと違う。半分正解、半分まちがい」

彼女は、不安そうにきょとんとしている。ぼくにも、今後の展開はわからない。そもそもどうしてぼくが、この場に呼ばれたのか。

「どういうことですか。あたし、どうしたらいいんですか…」

キバさんは、とんでもないことを言い出した。

「サファイアは退社。けれど、芸能界を辞めてもらうわけじゃない。まだまだ、ステージに立つための努力を続けてもらう。社長の了解はとってある」

ぼくは、宮中しほりと、同じく、ワケわかんない表情だったはずだ。けれど、次のひとことで、ぼくは突然ヒートアップすることになった。

「きみはこれから、俺とサトルたちが新しく立ち上げるバンドのボーカルとして、再出発するんだ」

「え…」

そんなこと、許されるはずがない。