012 元アイドルの女02

会場は、想像よりはるかにグレードを落としていた。古びたパーティルームの中部屋に、サファイアと鹿浜橋ミュージックだけ、7人ほどの関係者。レコード販売店も、テレビやラジオの関係者も、ライブ制作もいなかった。ミヤタ部長も、サカモト主任も来ない。同様の打ち上げでも群を抜いて低予算。宮中しほりの現在地を思い知らされた。ていうか、とりふくでよかったじゃん。

乾杯しても、パーティは盛り上がらなかった。普段いっしょに仕事をしているメンバーだが、数字が伸び悩んでいることで、はしゃぐ気持ちにはならなかった。冷凍食品をレンチンしただけのカラアゲや枝豆、微妙にぬるいビール。宮中しほりとそのマネージャーだけが、必死に明るく振舞って、アイドル時代の曲を振りをつけて歌ったりしていた。このひとは、アーティストとしては芽が出ないけれど、本当にいいひとだ。自分のツアーの元スタッフにも、いまだに年賀状を欠かさないという。いいひとなだけに、芸能界で突き抜けるのは難しいのかも知れない。

キバさんは、サファイアのひとたちに、ぼくといっしょに独立する、と言いまわって、ひとしきり挨拶が終わったら、帰っていった。その直前、「二次会には行くな。あとで連絡しろ」。そう、ぼくに耳打ちしていた。具体的な仕事の話があるらしい。宮中しほりには申し訳ないけど、ぼくらの仕事につながったのなら、このパーティはぼくらにとって意味がある、と思うことにした。

パーティがお開きになった。ニシオカさんはサファイアのひとと二次会。キバさんに連絡を入れた。「さっきの会場の隣の部屋に、30分後に来い。シバノ社長も一緒だから」。よくわからない展開。シバノ社長は芸能界の大物だ。気軽に話せるわけではまったくないけれど、キバさんが一緒だから大丈夫か、と思い直す。

指定された部屋には、キバさん、シバノ社長に加えて、宮中しほり本人もいた。なんだか重たい話をしていたみたいで、宮中しほりの表情は暗かった。というより、今にも泣きだしそうだ。シバノ社長だけが、ぼくを明るく迎えてくれた。けれど、その明るさも空回りしている。

「おうおう、エンドウくん、久しぶり。今回の新譜、本当にお世話になったね。ありがとうな」

エンドウはぼくの苗字。エンドウサトルといいます。

「いえ、とんでもない。宮中さんががんばってくれたおかげです」

宮中しほりは、一応こちらを見て、軽く会釈を投げてきた。その仕草はとても儀礼的で、感謝の気持ちがこもっているとは思えなかった。とりあえず、キバさんの隣に座る。なんだか、居心地はよくない。楽しい時間になるとは思えなかった。