011 元アイドルの女01

バンドを組むことになってから数週間、宮中しほりの、制作、営業、プロモーションの総合打ち上げがあった。たまたま直前の現場でニシオカさんと一緒だったので、一緒に行く。

「あんまり流れはよくないみたいだな」

打ち上げに行く前にコーヒーでも、ということでカフェに入る。

「まあ、予想通りってかんじっす。よくもなく、悪くもなく。ちょっと悪いかな」

「数字は?」

宮中しほりは、アイドル時代はそれなりの人気メンバーだったが、卒業してからの3枚のマキシシングルは、プレスで3万6000枚、3万枚、2万2000枚。絵に描いたような右肩下がりだ。実売はもっと少ない。今回のアルバムは、初版は2万枚。それでも完売には届かないかも知れない。

それでも、制作費や宣伝費をどんどん注ぎ込んでの2万枚は危険水域だが、だいたいそんなもんだろうという前提でリリースする2万枚は、とりあえずの及第点だ。費用を抑えていれば、赤字になることはたぶんない。とはいえ、宣伝費もほとんど出ないので、新しいファンを獲得することはほぼ不可能なのだが。つまり今後、宮中しほりは、奇跡的なブレイクスルーがない限り、安定型低空飛行を続けていくことになる。こういう中間層アーティストがウヨウヨいる。

アルバムツアーの予定も決まっている。2週間後から、全国6か所、8公演のライブハウスツアー。キャパは全公演あわせて2500くらい。なんとかソールドアウトしたが、アイドル時代には横浜アリーナやらマリンメッセ福岡やらを埋めていたのに比べると、ちょっぴり寂しい。

「そういえば、今日のパーティ、キバも来るらしいな」

「あ、はい。昨日連絡があって。サファイア絡みでちょっとついでの用事があるから、って。」

サファイアは宮中しほりが所属するプロダクション。キバさんは、サファイアのアーティストを長く手掛けていたことがあり、サファイアと鹿浜橋ミュージックをつなぐハブみたいな役割だ。

「フリーになったら、サファイアは狙いどころだもんな。大口顧客、ってとこか」

「そりゃ、あの事務所に食い込めれば、生活には困らないでしょうけど」

ぼくらが独立することは、社内では知れ渡っていた。ぼくらの上司であるミヤタ部長も、ある程度は覚悟していたのか、すんなり了承してくれた。むしろぼくのほうが強く引き留められたくらいだ。宮中しほりのアルバムをうまくさばいたことで、ぼくの評価も知らないうちに上がっていた。嬉しかったが、決意は変わらなかった。退職まで、あと2週間だ。

「んじゃ、そろそろ行くか」

数字がよくなかったから、あまり盛り上がらないだろうけど。会場に向かう。