007 プロローグ 07

キバさんから連絡があったのは、宮中しほりの仕事を打ち上げた日のことだった。「夜、とりふく20時。今後の話をする」。いつも要点だけのLINEだ。

このところ、スケジュールがなかなか合わなかったので、キバさんに会うのは半年ぶりくらいだ。サシでメシ、となるとさらに1年ほど期間が空く。指定された時間の少し前、とりふくに向かった。キバさんは下戸だが、「木羽」とラベルを貼ったコーラのペットボトルを店にいくつも置いている。ボトルキープ、だそうだ。少し早めに行ったのに、キバさんはもう、焼鳥丼をかきこんでいた。

「おう、久しぶり。宮中の新譜、うまくいったんだってな」
「ええ、まあ、何とか」

サラダと焼鳥をオーダーした。キバさんと2人のときは、ぼくも酒は飲まない。

「ところでオマエ、いくつになった?」
「7月で28になります」キバさんはぼくの7歳上。
「そっか、まだ大丈夫だな」

ゆっくり頷いて焼鳥丼の最後のひとくちを運ぶキバさんをぼんやりを眺めながら、次の言葉を待った。

「俺、鹿浜橋ミュージックを辞めるから。合併後のクリスタルには行かない」

これは予想通り。前置きは長くせず、すぐに核心を持ち出す。いつもの話し方。わかっていたから、準備はできていた。そのまま在籍するなら、面接なんてとっとと済ませていたはずだ。動揺もなく、コーラを口に運んだ。独立か、転職か。考えられる選択肢はあとふたつ。どちらであっても、ついていくことは決めている。

「バンドやるから。俺がギター。オマエはベース。ボーカルも1人は決めた。あとはこれから探す」

コーラを吹き出しそうになった。ギリギリで堪えたら、行き場を失ったコーラが鼻の奥に殺到した。2分ほどせき込んで、呼吸ができなかった。薄れていく意識の中で、キバさんの言葉の意味を受け止めようとした。けれど、うまくできなかった。

「マンガみたいな反応すんなよ」

アンタのせいだろ、と叫びたかったが、それでもできない。キバさんのコーラを奪って飲み下した。