006 プロローグ 06

「このLINEを見る限り、何かしら考えてるのは確かなんだろうな。その何かしらに、オマエを巻き込もうとしてるってことか」
「まあ、そういうことなんですかね。俺としては、キバさんと仕事できれば、それ以外の条件は特にないし。どうなってもいいや、と思ってるんですけど」
「しかしまあ、クリスタルはなさそうだな。別のレコード会社から誘われてるとか、独立とか」

そのあたりまではぼくも考えていた。レコード会社で、制作スタッフの転職は日常茶飯事だ。そもそも会社の看板より個人のスキルと人脈で仕事をしている面が大きいので、優秀な人はどの会社も欲しいし、独立してフリーランスになることだって珍しくない。キバさんは大御所アーティストを担当することが多いから、独立しても仕事がなくなることはないだろう。ぼくを引き連れて独立しようとしているのか。想像としてはありうる話だと、ずっと思っていた。

「けどまあ、アイツのことだから、なんかとんでもないこと考えてるかもな」
「あは、キャラ的には確かにそうですけど、現実問題、そんなに選択肢ってあります?残留してクリスタルに移籍するか、独立するか、転職するか、そんくらいじゃないっすか」
「わかんねーぞ。いきなり焼き芋の屋台を引く、とか言い出すかもな」
「そりゃたいへんだ、いまから足腰を鍛えておかないと」

ニシオカさんが日本酒と鳥刺しを注文した。シメにいつもテーブルに並べる2品だ。

「俺、オマエはクリエイティブの方向に行きたいんじゃないかって思ってたんだよな。だから、キバを紹介したんだけど。それって、間違ってなかったか?」
「え、俺は…よかったと思ってます。ほんとに感謝してます」

ディレクターは制作管理、作家やミュージシャンがクリエイティブな才能を発揮できる環境を整えるのが仕事で、自分自身がクリエイティブな作業を担当するわけではない。それがタテマエだが、実際は曖昧で、クリエイティブ寄りのディレクターもいる。キバさんはそっち。ぼくも入社当時はそっちに傾いていた。ニシオカさんはそのことを察知して、管理系に特化した自分ではなく、キバさんにぼくを預けたんだろう。

「でも、ニシオカさんのことも尊敬してますよ。いろいろ勉強させていただきました。どこに行っても、まだ俺のこと、切らないでくださいよ」

ニシオカさんは、このままクリスタルに移籍する。ずっと世話ばかりかけてきたけど、これからは別の道を行くことになる。何も言わずに少し赤くなって日本酒をすすった先輩を、目をそらすことなく見ていた。