005 プロローグ 05

会社から5分ほど歩いたところにある焼き鳥屋・とりふくは、鹿浜橋ミュージックのスタッフ、アーティストたちのたまり場だ。18時を過ぎて、テーブルはだいたい埋まっている。ニシオカさんは、いちばん奥の袋小路にある4人掛けのテーブルで、ハイボールで焼き鳥を流し込んでいた。

「お、お疲れ。たいへんだったな」
「もうほんと、参りましたよ。何とかなってよかったですけど」
「いやでも、この仕事でオマエの評価は間違いないな。主任にしてもいいんじゃないか、っていう話も出てるらしいぜ。あんな仕事に就けるのはもったいなかったと思われてるかもな」

あんな仕事って。まあ確かに、アイドル上がりのソロシンガーというのは、レコード会社の制作スタッフにとって、魅力的な現場とはいいがたい。一流の大御所や売れ筋を担当したいと思うのが人情ってものだ。宮中しほりは、グレード的にも売上的にも、それには程遠い。特にいまは、合併を控えた大事な時期。大きな仕事で実績を残して、評価を上げたいと思うのは当然だろう。なんといっても、鹿浜橋ミュージックは吸収される側なのだ。

「まあ、とりあえずちゃんとできてよかったです」
「クリスタルに移籍してからも、未来は安泰、ってとこか」
「うーん、どうなんでしょうねえ。俺、まだ面接もしてないし」
「あ、そうらしいな。忙しくて後回しにしてるんだろ?」
「いや、まあ、そうなんですけど。でもちょっと、考えてることがあって」
「キバのことか?」

軽くうなずいた。宮中しほりの担当ディレクターを決めるとき、誰も手を挙げなかった。そこで、キバさんはぼくを推したそうだ。ぼくは担当先にこだわりはなく、求められた仕事をきっちりこなしたいタイプ。だから特に気にせず現場に入ったが、キバさんは、「この仕事だけはちゃんとやれ」とLINEを送ってきた。普段はそんなことは言われないから、不思議に思ったのは確かだ。そして、「今後のことは、宮中の仕事が終わったら話す。それまで面接は延ばせ」とも。

ニシオカさんに、キバさんからのLINEを見せた。

「俺は一応、これからもキバさんの現場にいたいと思ってるんですけど。けど、キバさんが今後どうするのか、まったくわかんないんですよね」

ニシオカさんも、キバさんの去就については何も知らないみたいだった。